【読書】フランス人は10着しか服を持たない

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2014年に発売され、2017年に文庫化されたベストセラー、『フランス人は10着しか服を持たない~パリで学んだ“暮らしの質”を高める秘訣~ 』を読んでみました。

これは、ひとりの女の子の成長物語

この本は、タイトルから連想される整理収納のテクニックや、ファッションのコツを教えてくれる実用書ではありません。ひとりの女の子が、師匠ともいうべき年上の女性に出会って生き方を見直す、成長物語です。

著者のジェニファー・L・スコットさんは、10代のとき、フランスに留学したアメリカ人女性。ホームステイ先の家庭で出会った「マダム・シック」のライフスタイルに魅せられ、彼女の美意識を自分の中に取り込んでいきます。

たとえば、「間食をしない」「家の中でもきちんとした服装でいる」「家事や雑用の最中にも、ささやかな喜びを見出す」など。タイトルの「10着」とは、マダムにならって、自分に似合っていて必要な最小限のワードローブだけを選んで1カ月過ごしてみたら、毎朝のスタイリングに迷わなくなったり、買い物欲がおさまってくるなど、良い効果がたくさんあったエピソードから、象徴的にピックアップされたものだと思います。

一緒に美のスタイルを発見していく喜び

年長の読者からみると、マダムの教えはごく当たり前のことばかりで、ほかのマナー本やライフスタイル本でも、繰り返し書かれていることだと感じるかもしれません。しかし大事なのは、マダムやほかの誰かに説教されて、自らを省みたり欠点を直したのではなく、著者自らがこれらの教えを「発見」して、人生を変えていく点です。

著者は、これまでのアメリカでの暮らしを全面否定しているわけではないし、パリとロサンゼルスでは気候もかなり違うから、帰国後、マダムのスタイルをそのまま持ち込むのは無理な面もあるでしょう。ただ、「こんな風に暮らしたい」と願い、その通り実践することは、住む場所が変わっても、時代が変わっても、できることです。

この本には、旅や異界での冒険を通して主人公が成長するファンタジーと、同じ構造が見受けられます。要点だけを押さえて「〇〇しましょう」と書かれた本を読んでもピンとこない人も、自分とどこか似ている女の子が、「そうなんだ!」「私もやってみよう!」と、日々何かを見つけて成長していく過程をともに歩んでいけば、マダムの価値観がすんなりと頭に入ってきます。

この本が持つ、どこかファンタジーっぽい雰囲気は、マダム一家が貴族の末裔であること、そして著者自身も裕福な家庭に育っていることにも理由があります。ごく普通のおかずも、上質な器にちょこんと盛りつければ高級感が生まれるように、昔からのシンプルな教えも、貴族のマダムからリッチな女の子に受け継がれることで、ありがたさが増すのです。

スタイルが決まらないと、ムダな時間が過ぎていく

「さりげないのにおしゃれ」とか、「シンプルだけど豊かな暮らし」という、フランスのブランドイメージを前提に企画された本は、ほかにも山ほど出版されています。それだけ「自分のスタイルを決め、必要なものだけを選んで暮らす」生き方を貫くのは、憧れだけどハードルが高いのでしょう。

「素敵!」「いいな~」と思いながら、読書でつかの間だけ疑似体験してパリの暮らしに思いを馳せる。それも人間らしいといえばそうですが、暮らしや服装だけではなく、仕事でも何でも、スタイルが定まると余計な情報に惑わされなくなるのは本当です。

私は家ではラクな格好をしていたいし(本当は外でもそうしたい)、夕食に手づくりのタルトを用意することは生涯ないでしょうが、やりたいことを生き生きと行うためにも、ベースをシンプルに、自分好みに整えることは大事だと思っています。スタイルが定まらず、あれこれ迷っているうちに、時間がどんどん過ぎていくのが惜しいと感じる気持ちは、おそらく私と同年代のマダム・シックも、きっと持っていますよね?

出版企画のヒント

実用本の企画、特に女性向けの企画を持つ人は、「コレができたらあなたは成長する」「今よりステキになる」「もっと幸せになる」というメッセージを込めた物語に仕立ててみては?

いまだにフランスといえばイメージするのはコレ。子どもには衝撃だったあの8巻!

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