【出版のヒント】親向けに児童書を企画する

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児童書の編集者のすすめで、『こころのふしぎ なぜ?どうして? 』を読んでみました。

子どもと大人、両方のニーズを満たす

高橋書店の「なぜ?どうして?」シリーズは、『たのしい! かがくのふしぎ なぜ?どうして?』など、勉強や生活に役立つ企画を集めた児童書シリーズです。子どもの知的好奇心に訴えかける構成と、親しみやすいイラストやマンガ、キャラクターの多用で、難しい問いかけにわかりやすく答えて人気を得ています。

『こころのふしぎ~』はその中の一冊で、続編も出版されています。「心って、どこにあるの?」などの素朴な疑問や、「気もちを上手にことばにするには、どうしたらいいの?」という具体的な質問、さらに「人は、どうして人を殺すの?」という答えに窮するような問いかけとその答えを通して、人間の感情や命の連鎖、社会の規範を考えさせる内容です。

シンプルながら深い子どもの問いかけに、やはりシンプルかつ深い言葉で回答した文章はたいへん完成度が高く、執筆者や編集者の力量にうなります! それとは別に、このシリーズがヒットしている理由ですが、子どもだけではなくその親、さらに祖父母の心までをとらえたからでしょう。

児童書がもたらす3つの効果

親は「教養を深めてほしい」「成績がよくなってほしい」「人格を高めてほしい」などの理由で子どもに読書をすすめがちですが、子ども自身は、面白そうかどうかで本を選びます。子どもが「読みたい」と思って選ぶ本と、大人が「読ませたい」と思って選ぶ本が、必ずしも一致するとは限りません。

親が良書を揃えても、子どもが読まなければ意味はないし、親に「読みなさい!」と命令されれば、ますます読む気は失せてしまいます。そこで、知識や教養が身につき、子どもの成長に役立つうえに、面白く読める本があれば、親は買い与えたいと思うし、子どもも興味をそそられるので、両者の利害は一致します。

さらに、親が読んでも役立つ内容で、読書をきっかけに親子の会話がはずむようになれば、一冊の本が子どもに役立ち、親に役立ち、親子のコミュニケーションにも役立つという、3つの効果をもたらします。また、世代間の交流に役立つ本は、祖父母が孫に、おじやおばが、おいやめいにプレゼントしたくもなります。

親が「買う理由」を用意する

子どもが読んで「面白い」「役に立つ」だけではなく、大人が「買う理由」を用意できるかどうかが、絵本や児童書の売れ行きを左右します。『こころのふしぎ~』については、大人が読んでも心について深く考えさせられる内容であることと、子どもに「心って、どこにあるの?」と聞かれたときの、アンチョコとして機能している面もあると思います。

絵本でも、『おやすみ、ロジャー 魔法のぐっすり絵本』は、子どもがぐずつかずに早く寝てほしいという親のニーズから売れた本でしょうし、『このママにきーめた! 』は、親が自分の価値を確認したり、育児でしんどいときを乗り切るために購入するケースが多いと推測しています。

 

大人向けの本は、その人にだけ買う理由があればいいのですが、絵本や児童書は、大人と子どもの両方に「買う理由」「読む理由」が必要になります。親と子への複眼的な目配りは、面倒といえば面倒なのですが、当たれば倍々の効果をもたらすのが魅力でもあります。

絵本や児童書では、作家性を重視する傾向もありますが、実用書には別の戦略が必要です。子ども向けの実用書を出版してみたい人は、親の気持ちや事情を考慮して、親が「買う理由」を用意してみてください。

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